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書誌情報

論題:欧米と対比した戸別所得補償の特徴と課題――直接支払い制度と競争力,土地資源――

10.12.01[ 更新11.01.19 ]

タイトル
欧米と対比した戸別所得補償の特徴と課題――直接支払い制度と競争力,土地資源――
要旨

1 米国の直接支払いは3 層からなり,その基本的な性格は不足払い,つまり農産物価格が一定の水準を下回った場合の補てんである。一方,EUの直接支払いは単価が固定されている。いずれも過去の一定期間における単収と面積に固定されている点で,当年値に基づく補てんを行う戸別所得補償(および米国の新しいACRE支払い)とは異なる。
2 米国・EUともに主要な直接支払いは,輸出競争力を高める支持価格引下げの補てんとして導入された(その結果単収の地域差を反映)。他方,スイスの直接支払いは多面的機能への対価であり,国民投票により高水準の支払いが実現した。どの例も農業収入を維持する方針が明確であった。
3 それに対して日本の米の場合は,内外価格差が大きく,WTO対応で価格支持を廃止したうえ,傾向的な値下がりの補てんをしなかった。戸別所得補償によって欧米に近い安定的な補てんが実現したものの,値下がりが続いた場合の十分な補てんは保証されておらず,財源の不安もある。
4 支持価格がないことは価格のコントロールがあまり精確にできないことを意味しており,内外価格差と,国内の供給過剰および需要減退を考慮すれば,今後の値下がりが懸念される。
5 また,米国・EUのような輸出国では,価格が低下すれば輸出向けや国内飼料向けの需要が大きく拡大し,価格が下支えされる。さらにはバイオ燃料向けの需要創出も可能である。それに対して輸出競争力を欠く日本の米は,そうした効果や選択肢が限られている。
6 こうした現状では,戸別所得補償の導入が値下がりを促進する可能性もある。また,自由貿易協定等により輸入関税を引き下げた場合,戸別所得補償の拡大により米価を補てんしても,輸出競争力が無い限り国内生産は縮小するであろう。
7 米国・EUが用いた支持価格の引下げと直接支払いによる補てんという方法は,以前からの価格水準があまり高くないことと,価格引下げにより内外需要を拡大できる競争力を前提とした上で適切な需給調整機能を発揮するようである。米国とEUはともに日本に比べて土地資源の豊富な輸出国・地域であり,その条件に合わせた形で国際ルールが設定された。土地資源の乏しい日本が適応していくことは困難を伴うのである。
8 残された需給の調整手段として,また米価下支え(および補てんにかかる財政支出の抑制)の間接的な手段として,生産調整の役割は大きい。日本における生産調整は水田農業や土地資源賦存を背景とする集団的取組みによっており,個々の経営を対象とする戸別所得補償との政策上のすり合わせが必要である。
<表記:米国(アメリカ)>
<地域:欧州(ヨーロッパ)>

刊行年月日
2010年12月01日
著者/
研究者紹介
平澤   明彦 (ヒラサワ アキヒコ) : 役員・理事長・顧問・理事研究員 等 リサーチ&ソリューション第1部   理事研究員 研究員紹介を見る
掲載媒体
定期刊行物 『農林金融』
2010年12月号 第63巻 第12号 通巻778号  2 ~ 22ページ
掲載コーナー
論調
掲載号目次
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2010/12/
第一分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  (詳細区分):国内農業
第二分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  (詳細区分):海外農業
出版者・編者
農林中央金庫 発行   / 株式会社農林中金総合研究所 編集
ISSN
1342-5749
PDF URL
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1012re1.pdf  1.8MB
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/3718.html