書誌情報
論題:クロマグロの資源問題とわが国マグロ養殖をめぐる動向
10.05.31[ 更新10.09.06 ]
- タイトル
- クロマグロの資源問題とわが国マグロ養殖をめぐる動向
- 要旨
-
1 マグロについては,世界的な漁獲規制強化の動きが加速しており,今年3月のワシントン条約締約国会議では大西洋クロマグロの附属書掲載問題が注目を浴びた。同条約は,野生動植物の保護を目的に,絶滅のおそれのある動植物の国際取引を規制するものであり,食用種を対象とする場合は,信頼できる資源評価と「自然資源で暮らす人々の視点」が不可欠である。一度附属書に掲載されると,取消やダウンリストが難しいだけになおさらである。
VIEW MORE CLOSE
2 わが国のクロマグロ供給は,太平洋海域からの供給と大西洋海域からの供給がほぼ拮抗きっこうし,前者の主体がわが国漁船による漁獲,後者の主体が輸入という状況である。今回問題となった大西洋資源に限らず,クロマグロに関する漁獲規制は強化される方向にあり,今後は供給量の減少が見込まれる。その一方で,クロマグロはミナミマグロとともにトロ商材として人気が高く,近年のトロ嗜好ともあいまって年々その割合を高めており,こうした事情を背景にわが国でのマグロ養殖が拡大している。
3 しかし,養殖場の拡大余地,種苗の確保,エサ(生餌,魚粉)の需給見通し,いずれも制約要因として作用する可能性が大きい。また,高級寿司店から回転寿司等への外食需要の変化や量販店での販売増加を背景に,近時は養殖マグロの価格の低下(=収益性の低下)も見られ,こうした点を考慮すれば当面わが国のマグロ養殖の展望は限定的なものとなろう。
4 クロマグロに限らないが,水産資源は適切に管理すれば無限に再生産可能な天然資源であり,そこに食料としての貴重性がある。マグロ養殖に過大に期待するよりも,資源管理の徹底と資源の有効利用が優先されるべき課題であろう。輸入消費のために地中海でのマグロ蓄養事業を主導し,それが主因となって資源水準が悪化した大西洋マグロのみならず,わが国が大半を漁獲,消費する太平洋マグロについても,その資源管理に果たすわが国の役割は重大である。 - 刊行年月日
- 2010年06月01日
- 著者/
研究者紹介 -
出村 雅晴 (デムラ マサハル) :基礎研究部 専任研究員 - 掲載媒体
- 定期刊行物 『農林金融』
2010年06月号 第63巻 第6号 通巻772号 50 ~ 61ページ - 掲載コーナー
- 論調
- 第一分野
- (大区分):農林水産業・食品・環境 (詳細区分):水産業
- 出版者・編者
- 農林中央金庫 発行 / 株式会社農林中金総合研究所 編集
- ISSN
- 1342-5749
- 書誌情報URL
- https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/13.html