農林中金総合研究所

近年，公的セクターでのバランスシート導入が急増している。昨年10月には，わが国で初めて国のバランスシートが試作された。地方自治体では国に先行する形で，多くの自治体がすでにバランスシートを作成公表しており，昨年３月には自治省（現総務省）から作成の統一基準が提示された。地方では1987年に熊本県によって初の地方自治体のバランスシートが作成された。自治省のマニュアルが公表されるまでにバランスシートを作成した都道府県は三重県，宮城県，東京都，神奈川県など13団体にのぼっている。このような背景には，現行の公会計に多くの問題があることが指摘されているからである。現在の政府の会計制度は現金主義をとっており，ストックよりもフロー，決算（結果）よりも予算が重要視されている。また財務情報の公表についても，国レベルでは一般会計，地方レベルでは普通会計の情報が重要視され，国や地方政府の出資する特殊法人等も含めた全体像は把握しにくい状況である。さらにこのことが，財政悪化が叫ばれるなかで，隠れ債務の存在を不安視する国民の懸念材料にもなっている。以上のようななかで，国及び地方政府によるバランスシートの導入が進んでいるが，依然として初期段階であり，その作成の位置づけ，活用状況についてはまだ確立されていない。国民がバランスシート作成に期待しているものは，財政再建に資するための情報提供，効率的財政運営に向けた一つのステップであり，今後のより深い進展を期待したい。