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書誌情報

論題:EUのCAP改革に伴う食料貿易とバイオ燃料の動き-穀物過剰生産の克服-

09.05.01[ 更新10.09.06 ]

タイトル
EUのCAP改革に伴う食料貿易とバイオ燃料の動き-穀物過剰生産の克服-
要旨

1 EUは食料の安定供給を確立するために1962年にCAPを導入した。だが,価格支持水準が高かったため農家の生産意欲を過度に刺激し,80年代から今日に至るまで,小麦等基礎的食料は過剰生産となり,EU農政にとって最大の難題となっている。
2 その是正のため,EUは92年に,輸出補助金の削減と価格支持水準の引下げを実施する代わりに,農家の所得を保障する直接支払い導入という抜本的改革に踏み切った。
3 輸出補助金削減の結果,小麦の輸出はEU15で92年の2,300万トンから98年に約4割も減少し,その後EU27で1,000万トンを挟んで動き,輸出量は補助金の削減ほどに減少しなかった。直接支払いで農業所得が維持されたために,小麦等の農産物価格が低下しても農家の作付け意欲が大きく衰えず,過剰農産物の一部をコスト割れでも域外輸出できたからである。直接支払額が農家の農業所得に占める割合は08年に76.8%にも達した。
4 EUは03年から直接支払いを「生産から切り離す」デカップリングの改革を始め,穀物生産は市場価格に反応するようになったが,生産量も輸出量も変動が大きくなった。一方,デカップリングとはいえ,直接支払いの絶対額は維持されているため,農家の生産意欲は大きくは減退していない。08年のCAPヘルスチェックでは,直接支払額の削減は決まったものの,急激な削減ではない。また休耕制度は廃止されたため過剰生産の懸念は残っており,介入買入は2010年に残されるのが300万トンの小麦だけになるため農産物価格が下落する恐れもある。
5 新たな過剰農産物対策として,EUは米国と同様にバイオ燃料への転用を選択した。92年以降,休耕地へのバイオ燃料原料の作付が認められた。03年のCAP改革により,バイオ燃料原料の作物に対し,奨励金支給制度を実施した。08年のCAPヘルスチェックではその奨励金制度が廃止された。EUはバイオ燃料の需要を利用義務化等で政策的に拡大しながら,供給面では補助金ではなく,市場メカニズムで農民の生産意欲を刺激する方針であり,同時に食料と争わないようセルロースなどを原料とする第二世代バイオ燃料の開発を強化する方針である。中長期的にはバイオ燃料の生産は,EU農政の柱の一つとなろう。

刊行年月日
2009年05月01日
著者/
研究者紹介
阮   蔚(Ruan Wei) (ルアン ウエイ) :基礎研究部   主任研究員 研究員紹介を見る
掲載媒体
定期刊行物 『農林金融』
2009年05月号 第62巻 第5号 通巻759号  20 ~ 33ページ
掲載コーナー
論調
掲載号目次
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2009/05/
第一分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  (詳細区分):海外農業
キーワード
EU,農政,輸出補助金,バイオ燃料,直接支払,デカップリング
出版者・編者
農林中央金庫 発行   / 株式会社農林中金総合研究所 編集
ISSN
1342-5749
PDF URL
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0905re2.pdf  168.5KB
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2101.html