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書誌情報

論題:協同組合による医療と介護の可能性――JA厚生連の佐久総合病院の取り組みから――

13.11.29[ 更新13.11.29 ]

タイトル
協同組合による医療と介護の可能性――JA厚生連の佐久総合病院の取り組みから――
要旨

1 本稿はJA長野厚生連佐久総合病院の活動を事例に,ペストフの共同生産の概念を用いて,協同組合による医療と介護の可能性を議論するものである。介護サービス供給において準市場が定着しようとする世界的な潮流のなか,ペストフは,本来目指したはずの福祉多元主義が達成できず,営利企業による市場の寡占化が進行している状況に警鐘を鳴らしている。ペストフは1990年代から調査を通じて,協同組合が提供する医療や福祉サービスの質の高さを明らかにしてきた。近年,ソーシャルエンタープライズ(社会的企業)が注目されているが,ペストフはその代表を協同組合と考える。協同組合による対人社会サービスには3つの潜在的貢献があるとし,働き手にやりがいをもたらし,利用者がエンパワメントされ,複数の社会的価値の創造に貢献すると説明する。またその背景として,協同組合による対人社会サービスには,生産プロセスに「共同生産」(co-production)の過程が組み込まれていることを指摘する。「共同生産」には「共同生産」(ミクロ),「共同管理」(メゾ)(co-management),マクロレベル,政策レベルの「共同統治」(co-governance)が存在する。
2 JA長野厚生連佐久総合病院は,故若月俊一院長のリーダーシップのもと,日本の医療政策に影響を与える数多くの取り組みを行ってきた。「農民とともに」を基本理念に掲げて展開した「出張診療」「文化活動」「全村健康管理活動」は佐久病院の医療活動の特徴である。ペストフの「共同生産」概念を用いると,地域ケア科が行う在宅での終末医療は,専門職(医師,看護師,介護職員等)と利用者(本人や家族等)による「共同生産」といえる。在宅の終末期医療は専門職の技術だけでは限界があり,本人や家族の意思で成立する。佐久病院と八千穂村(当時)で始めた全村健康管理活動は「共同管理」といえるが,健康管理合同会議の構成メンバーが役場,病院,住民,関係団体(JAを含む)であることを考えると「共同統治」に近い。佐久医師会との協働,地域の多職種との協働によるネットワーク組織の構築は,地域において在宅の終末期医療を普及させるための地域医療政策の一環と考えられ,「共同統治」である。
3 ペストフは「医療福祉サービスにおける市民参加と共同生産は,民主主義の発展や再生においても重要な意味をもたらす」というが,協同組合医療介護は日本社会が育んできた財産であり,超高齢社会の医療介護のあり方を考える上で示唆に富んでいる。

刊行年月日
2013年12月01日
著者/
研究者紹介
斉藤   弥生 (サイトウ ヤヨイ) : 大阪大学大学院人間科学研究科 教授
掲載媒体
定期刊行物 『農林金融』
2013年12月号 第66巻 第12号 通巻814号  17 ~ 32ページ
掲載コーナー
論調
掲載号目次
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2013/12/
第一分野
(大区分):協同組合・組合金融・地域  (詳細区分):農協
出版者・編者
農林中央金庫 発行   / 株式会社農林中金総合研究所 編集
ISSN
1342-5749
PDF URL
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1312re2.pdf  886.6KB
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/4991.html