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論題:大規模稲作経営の実態と見えてくる課題

09.03.01[ 更新10.09.06 ]

タイトル
大規模稲作経営の実態と見えてくる課題
要旨

1 現行の食料・農業・農村基本計画(05年策定)では,「担い手の生産規模の拡大,低コスト技術体系の導入・普及等により,生産性の高い水田農業を確立」することが示され,「農業構造・経営の展望」(05年改定)では,2015年における水田作のあるべき姿として,家族農業経営8万戸(15~20ha),集落営農経営2~4万戸(34~46ha),主たる従業者1人当たりの年間所得が600~800万円と試算されている。
2 これを受けて,07年度から所得補填政策の対象者を経営規模で限定する水田経営所得安定対策(07年までの旧名は「品目横断的経営安定対策」)が,04年産米からはその前段となる米政策改革による「稲得」「担経」対策が実施されてきた。一方,インフラとして重要な圃場整備は,30a区画では水田全体の61%だが,1ha区画以上では8%に留まっている(06年)。
3 95~05年の間に販売農家が傾向的に減少し,稲作農家はさらにそれを上回る減少率を示すなかで,稲作農家10ha以上層は増加傾向にあるものの05年で1.1万戸(稲作販売農家における構成比1.1%),農家以外の稲作経営体も増加しているものの2.6千に留まっている。
4 「10ha層」の10a当たり稲作部門収支を見ると,土地生産性,労働生産性は農家が優れるが,消費者直販や高付加価値米志向の強い組織法人は,販売米価が高いために粗収益が若干高く,物財費では両者の差はほとんどない。しかし,組織法人は給料を中心とする販管費負担で農家に劣り,最終利益は補助金等を加えても赤字となる。稲作部門以外を含む経営全体で見ても,組織法人の最終利益は赤字であり,補助金等を含む事業外収入によって黒字となる(06年)。
5 03年に調査した全国7経営体を再度実態調査したところ,所在する市町村では引き続き稲作農家数が減少し大規模稲作経営体数が増加するなかで,1経営体を除いては規模拡大や区画整備が進んでいない。米価の長期低落傾向が作用しているものと考えられる。直播の採用動向にも大きな変化はなく,低コスト化に必要となる乾田直播が実用化できるのは1経営体に留まり,かつその労働生産性は米国加州の稲作の1/8と劣後する。
6 調査経営体のほとんどは,収益性向上と米価低下のなかでの経営の安定化のために高付加価値米生産と消費者直販を実施しており,経営限界米価(60kg当たり)は1~1.3万円と高く,上昇基調で,仮に米の輸入関税が撤廃されると2~5千円の補填が必要となる。
7 今後,仮に米の関税率が引き下げられると,慣行栽培の一般米や低価格の業務用需要は輸入米に席巻されるだろう。個別経営とともに集落営農の組成,育成が重要となろう。

刊行年月日
2009年03月01日
著者/
研究者紹介
藤野   信之 (フジノ ノブユキ) : リサーチ&ソリューション第2部   専任研究員
掲載媒体
定期刊行物 『農林金融』
2009年03月号 第62巻 第3号 通巻757号  2 ~ 18ページ
掲載コーナー
論調
掲載号目次
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2009/03/
第一分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  (詳細区分):国内農業
第二分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  (詳細区分):食品・フードシステム
キーワード
大規模,稲作,経営,農家,米価,生産費
出版者・編者
農林中央金庫 発行   / 株式会社農林中金総合研究所 編集
ISSN
1342-5749
PDF URL
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0903re1.pdf  153.6KB
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2090.html