書誌情報
論題:次期CAP(共通農業政策)改革とEUの財政・成長戦略―直接支払いの「緑化」、公共財供給の重視へ―
12.01.31[ 更新12.01.31 ]
- タイトル
- 次期CAP(共通農業政策)改革とEUの財政・成長戦略―直接支払いの「緑化」、公共財供給の重視へ―
- 要旨
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1 現在EUで検討が進んでいる次期共通農業政策(CAP)改革は,EUの財政・成長戦略によって大きな影響を受けている。
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2 「EU予算見直し」の草案はCAP(とくに直接支払い)の縮小を求め,「欧州2020」戦略はCAPに言及しなかった。こうした状況により,CAP自体の正当化が,経済金融の混乱による財政制約も相まって,次期CAP改革に向けた重要な課題となった。
3 農業部門はこれらの文書で求められた公共財供給などの今日的課題を主張してCAPの予算や領域の縮小を避けようとしており,その一環として直接支払いの「緑化」(環境支払い化)が提案された。また,そのために欧州委員会は一連の文書中でCAPの目的規定(EU運営条約)からの拡張方向を明示している。
4 改革の重点は,農産物の高値を背景に,生産過剰や対外通商交渉が大きな問題とならない情勢下で,上述の公共財供給のほか,新規加盟国への対応や,収入リスクへの対応などに移っている。その結果,多面的機能や公正のための予算の再配分が前面に出てきた。
5 「EU予算見直し」(2010年10月)は直接支払いの緑化と,(農家ごとの)過去実績方式の廃止,加盟国間較差の縮小を提示した。農村振興政策については欧州2020戦略に対応するほか,結束政策とともに共通戦略枠組みに統合する。また,保険およびその他のリスク管理手段の提供も掲げた。改革の大きな要素はここで示された。
6 「2020年へ向けてのCAP」(2010年11月)は事前公開討論の結果を受けて,改革の主要課題に対応する目標として,食料生産の維持,自然資源の持続可能な管理,均整のとれた地域振興の3 つを示した。直接支払いは,全農業者を対象とする基礎的所得支持部分(面積単価は各国・地域内で一律,加盟国間較差は客観的基準に基づき縮小)と緑化部分に分け,加えて一部の農家を対象とする条件不利地支払い,従来型の品目別支払い,そして簡易な小農支払いを設ける。また直接支払いの対象は農業従事者(active farmer)に限定し,受給額上限も設定する。農村振興政策は環境・気候変動・革新を全体の指針とする。
7 「欧州2020のための予算」(2011年6 月)はCAP予算を名目価額で維持し,いまひとつの財政問題である英国拠出金払い戻しの廃止も見送った。各加盟国では第一と第二の柱の間で財源の融通が可能となる。直接支払いは面積単価がEU平均の90%を下回る国について,その乖離幅の3 分の1 を引上げる。また直接支払いの30%が緑化部分となる。市場措置については危機的状況およびグローバリゼーションの影響に対する農家の救済措置を設ける。農村振興政策の加盟国間予算配分は客観的な地域的・経済的基準に基づき見直す。
<地域:欧州(ヨーロッパ)> - 刊行年月日
- 2012年02月01日
- 著者/
研究者紹介 -
平澤 明彦 (ヒラサワ アキヒコ) : 役員・理事長・顧問・理事研究員 等 リサーチ&ソリューション第1部 理事研究員 研究員紹介を見る - 掲載媒体
- 定期刊行物 『農林金融』
2012年02月号 第65巻 第2号 通巻792号 46 ~ 62ページ - 掲載コーナー
- 論調
- 第一分野
- (大区分):農林水産業・食品・環境 (詳細区分):海外農業
- 第二分野
- (大区分):農林水産業・食品・環境 (詳細区分):環境
- キーワード
- CAP改革,多年度財政枠組み,ヘルスチェック
- 出版者・編者
- 農林中央金庫 発行 / 株式会社農林中金総合研究所 編集
- ISSN
- 1342-5749
- 書誌情報URL
- https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/4214.html