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書誌情報

『環境危機と求められる地域農業構造』 (筑波書房ブックレット 暮らしのなかの食と農シリーズ67)

22.07.01[ 更新23.01.23 ]

タイトル
『環境危機と求められる地域農業構造』 (筑波書房ブックレット 暮らしのなかの食と農シリーズ67)
要旨


 食と農のグローバル化・大規模化が進行するなかで先進国ではおしなべて中小家族経営の経営危機と離農が相次ぎ、この間に地域農業構造は激変した。一方で、農業が気候変動への対応と生態系保全の環境適合型への転換を迫られ、疲弊する農村の活性化が求められる現在において、農業・農村政策もまた大きく転換を迫られている。今まさに農業・食料生産システムと地域の持続可能性が問われている。もっかの世界の食と農をめぐる状況はどうであろうか。コロナ禍で食料不安が現実のものとなり、食と農の基盤の脆弱さが露呈した。グローバル化による問題がいっせいにあぶり出され、ウクライナ危機がそれにいっそうの拍車をかけている。
 ひるがえって、わが国農政を顧みると、環境危機に対処すべく農林水産省は2021年5月にその中長期的な政策方針ともなる「みどりの食料システム戦略」(以下、みどり戦略)を決定した。みどり戦略では「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立」をめざして、2050年までに「農林水産業のCO₂ゼロエミッション化の実現」をはじめ「低リスク農薬への転換、総合的な病害虫管理体制の確立・普及に加え、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減」、「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減」、「耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%(100万ha)に拡大する」といった目標を掲げる。それを「イノベーションで実現」することを基本的な視点として施策を展開するとしている。
 みどり戦略の実現に向けては、基本理念を法定化し、環境負荷低減の取組みが継続的・安定的なものとなるよう、その枠組みとして「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(みどり戦略法)が2022年4月、第208回通常国会で成立をみた(公布から6カ月以内に施行の見込み)。みどり戦略に掲げる目標実現に向けて取り組む農林漁業者や事業者等を税制面や金融面で支援していくこととし、法律の施行から5年を目途に見直すこととされている。
 現在、各政策の検討が加速化し、イノベーションの創造をはじめ技術中心の議論が全面に押し出された格好になっているが、今後はそれらを地域でどう実践していくかが問われてくる。とくに農業の営みは単に経済行為にとどまらず物質循環の一環として大きな位置を占め、気候システムや生物多様性の面で重要な役割を担っていることに加え、農業が継続して行われることでわれわれの生活にさまざまな有形無形の恩恵をもたらす。国土保全、水源かん養、景観形成、文化伝承等、農村で農業生産活動が行われることでさまざまな価値が生み出される。何気なく暮らしている日常の風景は、決して自然のまま放置(放棄)した状態ではなく、長い歴史のなかで人間の手が入っていることを忘れてはならない。農村での人々の暮らしがそこにあるのである。
 農林水産業には産業政策としての農業政策の視点と地域政策としての農村政策の視点がある。技術主導の議論だけでは十分といえず、農村での多様なステークホルダーを包摂して環境危機への対処をはじめとした環境問題と、地域が抱える経済、社会の問題とを統合的に解決していくことが求められる。
 そこで、本書は、環境危機に直面し、地域農業の姿はいかにあるべきか、その経営形態や農法はいかにあるべきか、これからの農村像をどう考えるのか、農業構造のあり方にさかのぼって議論する必要性を提起するものである。本書が「持続可能な農業、持続可能な地域」を考える一助となれば幸いである。

 われわれはこの間、環境危機下にあって、農業にも課せられた温室効果ガスの排出規制をはじめとする気候変動対策や、持続可能な農業のあり方についての共同研究を進めてきた。
 河原林は、持続可能な農業を考えるにあたって、農業経済学と食農倫理学の接合が求められることに着目した。本書第1章は、河原林が農林中金総合研究所『農中総研 調査と情報』2022年1月号(第88号)に執筆したレポート「持続可能な農業を考えるにあたって─SDGs時代に農業経済学と食農倫理学の接合を期して─」を加筆修正したものである。
 第2章以下は、近年、大干ばつや豪雨災害に連続して見舞われている「環境先進国」ドイツの農林業気候変動対策と地域農業構造のあり方に注目してきた村田の『家族農業は「合理的農業」の担い手たりうるか』(筑波書房、2020年7月刊)や『農民家族経営と「将来性のある農業」』(筑波書房、2021年4月刊)を、河原林との共同研究でさらに発展させたものである。
 第2章は、河原林孝由基・村田武の共同論稿「環境危機の時代に求められる地域農業構造─ドイツ・ブランデンブルク州の農業構造モデルをめぐって」(『農林金融』2021年10月)を加筆修正したものである。
 そのドイツでは、メルケル政権が、環境危機に対応する農業のあり方をめぐっての国民的議論の方向づけをめざす「農業将来委員会」を2020年9月に組織し、1年後の2021年6月末に答申を得ている。農業将来委員会の編成はまさに国民的議論を偏りなく反映することを意図していたのであって、その答申「ドイツ農業の将来ビジョン」もまたドイツ農業の現状をしっかり踏まえ、2030年・2050年といった将来のドイツ農業のあり方、国民の食料消費・食生活のあり方がきわめてリアルに構想されている。答申の要点は、村田が『農業協同組合新聞』(第2450号、2021年9月20日)に、「ドイツ農業の将来ビジョン─環境、気候変動が焦点 脱工業化にシフト」と題して紹介した。それを加筆・修正したのが本書の第3章である。
 さらに、これまでもその論稿を紹介してきたミュンヘン工科大学のA・ハイセンフーバー教授から、最新の論稿「農家から専門的農業企業へ…またはその逆か」(2021年刊行の科学啓蒙雑誌“GEO” の環境問題特別号“WARNSIGNAL KLIMA Boden und Landnutzung”に所収)が届いた。これは上の農業将来委員会の答申と軌を一にするものであって、ぜひとも紹介したいと考えたものである。それが第4章である。

目次・表紙
『環境危機と求められる地域農業構造』 (筑波書房ブックレット 暮らしのなかの食と農シリーズ67)
はじめに

第1章 持続可能な農業を考える
1.持続可能な農業を巡る議論
2.「食農倫理学」へのいざない
3.食を通して見る景色
4.改めて持続可能な開発を考える

第2章 環境危機の時代に求められる地域農業構造
─ドイツ・ブランデンブルク州の農業構造モデルをめぐって─
はじめに
1.ドイツの農業構造とその変貌
2.ブランデンブルク州の農業構造
3.農業構造法をめざして
4.農業構造の目標設定と農業構造法の成立
おわりに

第3章 ドイツ農業の将来ビジョン
1.気象災害・生態系危機とドイツ農業の将来像
2.農業将来委員会の提言の要点
3.農業将来委員会「ドイツ農業の将来ビジョン」

第4章 農家から専門的農業企業へ…それともその逆か
【要約】
1950年代以降の農業分野の動向
農業部門の発展─批判的に検討する
行動の選択肢と相反する目標
なぜ「エコロジカル集約化」が新しいパラダイムか
世界の飢餓問題を考えると、ドイツの生態系の強化は正当化できるか
慣行農法と有機農業の間の「第三の道」─ハイブリッド農業
結論
刊行年月日
2022年07月01日
著者/
研究者紹介
村田   武 (ムラタ タケシ) : 九州大学 名誉教授
河原林   孝由基 (カワラバヤシ タカユキ) : リサーチ&ソリューション第2部   主席研究員 研究員紹介を見る
出版地
東京
出版者・
発行元
株式会社 筑波書房
形態(サイズ、
ページ)
A5判/68頁
入手条件・
価格
定価:本体750円(税別)
掲載媒体
『書籍』
2022年07月01日号
第一分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  
(詳細区分):海外農業
ISBN
ISBN978-4-8119-0628-7
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/publication/books/8941.html