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書誌情報

『ゲルトナーホーフ-ドイツの移住就農小規模園芸農場-』 (ミヒャエル・ベライテス編、マックス・カール・シュヴァルツ著)

23.03.01[ 更新23.05.12 ]

タイトル
『ゲルトナーホーフ-ドイツの移住就農小規模園芸農場-』 (ミヒャエル・ベライテス編、マックス・カール・シュヴァルツ著)
要旨

「消費者と生産者の間に直接的な結びつきが今日の農業ではほとんど破壊されている」これを再生して、食料自給の問題では「外国産品に代わる産品を市場に投入すること」までを見据える。
 これは今から90年近く前の1933年にゲルトナーホーフ(Gärtnerhof)を提唱したマックス・カール・シュヴァルツ(Max Karl Schwarz、1895~1963年)が出版した著作の一節である。ゲルトナーホーフとは、「最も集約的かつ多様な方法で野菜や果実を栽培し、大小の家畜を飼い、そこで働く人々の食料自給を完全に確保し、持続的に高い市場生産を実現する小経営」であり、これを移住就農によって実現するというものである。
 このコンセプトは、ドイツで第一次世界大戦と世界大恐慌の後の1933年にシュヴァルツが出版した著作において、危機に強い食料自給の土地経営をめざしたものとして登場し、それは第二次世界大戦後の1946年に改めて出版した著作をもって、これをゲルトナーホーフと名付けて整理し基本形の完成をみる。
 現在、ドイツで大学の講義で参考とされることはあっても、これら著作の原著は長らく絶版となっていたが、この度、ミヒャエル・ベライテス(Michael Beleites)の編集により体系的な書籍(“DER GÄRTNERHOF Selbstversorgung– ein Weg ins Freie”,Ma n u s c r i p t u m V e r l a g s b u c h h a n d l u n g Neuruppin 2022.)として蘇った。ベライテスはその出版意図をコロナ禍で「グローバル化した人や物の流れが制限されたとき、私たちはかつてなく外部供給に依存したなかで生きていることを認識させられることになった。食料自給力がかつてなく低下している。自由を自立的存在という意味で理解するならば、食料自給や食料主権もまた真の自由の一部である」、そして、それを実現するアイデアとして過去にゲルトナーホーフというコンセプトが提示されていたというのである。今日的にはエコロジー的側面にも着目し、「エネルギー低投入経営」という条件のもとで「多くのゲルトナーホーフは、エネルギーや水の供給において可能な限り自立し、あらゆる技術的補助手段や設備をエコロジー的に使用しようと努力している」と評している。

 われわれはベライテスの出版意図に賛同し、本書の翻訳出版に取り組んだ。ゲルトナーホーフのコンセプトは非常に幅広く、農法に始まり、農業構造、農業・農村政策から社会政策全般に至り、教育・訓練、その土台となる思想までを含んで体系化・統合化を試みている。原著は300ページを超える大部であり、詳細は出版した翻訳書の内容に譲ることとするが、ここでは食料安全保障(食料自給)の観点からゲルトナーホーフの農業モデルについて簡単に紹介したい。
 ゲルトナーホーフの農業モデルの基本理念は2〜5haの土地に、園芸農園と小農場を組み合わせることにある。小農民農場と異なっているのは、園芸の要素(野菜・果実・ハーブの集約栽培)によって、農場の経営収益と就農者の食料自給度が大幅に向上するところにある。また、従来の園芸農園とは異なり、農業の部分は生態系循環型経済という意味で、バランスのとれた「農場有機体」(Organismus)を確保することを目的としている。それには有機農業(バイオダイナミック農法)の活用が不可欠であるとし、牛ふんを中心に堆肥化した有機質肥料の自給をめざしている。1〜2頭の乳牛を飼うには、相応の草地と十分な割合の穀物(敷料として藁も使用)が輪作に必要となる。
 シュヴァルツが開発したゾーニングモデルは、農場敷地の中心に住居や経営用建物を置き、次いで温室や温床フレームがある集約ゾーン、そしてその周りに野菜畑や耕地がある主ゾーンが続き、その外側には果樹のある草地が広がっている。一番外側は、野生の低木の生け垣で囲われている。現在ではより広い面積を耕すようになったものもあるが、この基本理念は受け継がれている。
 この農業モデルを移住就農と組み合わせることで「現在さまざまな企業でフルに働いている人たちも半分だけ働いて生計を立て、これまで失業していた人たちも再び半分だけ働いて、移住就農活動によって食料自給を実現するという考えを育むことができる」とシュヴァルツが90年近く前の著作で指摘していることに驚嘆を禁じ得ない。また、シュヴァルツはゲルトナーホーフの安定的成長には協同組合が不可欠であるとし、「市場での確実な販売を保証し、協同組合活動の利点を活用するために、同様の経営を大きなグループとしてまとまった栽培地域とすることが必要である」と説いている。

「20世紀のふたつの戦後の非常事態のもとで練り上げられたゲルトナーホーフの概念」は、さまざまな危機に直面する現在にあって今一度注目すべきものとして再登場したのである。それは地域内・国内での物質循環・資源循環を高め経済循環を高めること、つまり食料安全保障の強靭性(resilience)の観点からも重要であろう。

目次・表紙
『ゲルトナーホーフ-ドイツの移住就農小規模園芸農場-』 (ミヒャエル・ベライテス編、マックス・カール・シュヴァルツ著)
序章 新たな移住就農運動のために ミヒャエル・ベライテス

Ⅰ『実践的移住就農への道』マックス・カール・シュヴァルツ著(1933年)

 バイオダイナミック農法の概要
 移住就農者の農場の技術的な構造
 移住農場の組織体制
 移住農場の実際経営への実践的アドバイス
 まとめ

Ⅱ『ゲルトナーホーフ 優れた農民と園芸家のための移住就農の目標』マックス・カール・シュヴァルツ著(1946年)
 ゲルトナーホーフの本質─その立地と担い手
 果実や野菜の集約栽培にとっての自然条件─気候、水、土壌
 施肥−都市廃棄物の処理−混合栽培
 ゲルトナーホーフの特徴とその施設─経営規模、気候条件と家畜飼育
 設備と労働力
 農場の空間的配置
 ゲルトナーホーフの事例
 ゲルトナーホーフの経営結果 食料自給と市場への出荷
 経営組織の整備
 ゲルトナーホーフの移住就農とその文化的意義

訳者あとがき
索引
刊行年月日
2023年03月31日
著者/
研究者紹介
河原林   孝由基 (カワラバヤシ タカユキ) : リサーチ&ソリューション第2部   主席研究員 研究員紹介を見る
村田   武(訳) (ムラタ タケシ) : 九州大学 名誉教授
出版地
東京
出版者・
発行元
株式会社 筑波書房
形態(サイズ、
ページ)
A5判/170頁
入手条件・
価格
定価:本体2,500円(税別)
掲載媒体
『書籍』
2023年03月31日号
第一分野
(大区分):農林水産業・食品・環境  
(詳細区分):海外農業
ISBN
ISBN 978-4-8119-6461-4
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/publication/books/9260.html