書誌情報
論題:日本の農業・地域社会における農協の役割と将来展望(上)-最近の農協批判に応えて-
06.06.01[ 更新10.07.30 ]
- タイトル
- 日本の農業・地域社会における農協の役割と将来展望(上)-最近の農協批判に応えて-
- 要旨
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最近,農協の存在そのものを否定するかのごとき農協批判が提起されている。批判内容は,①農協が零細兼業農家を温存し農業の構造改革を阻害している,②農協は行政の下請け機関である,③信用・共済事業を分離し農業関連事業に特化すべきである,④組合運営に少数の主業農家の声が反映されない,等である。そこで,本稿では,農協が果たしてきた役割を再確認・評価・反省し,今後に向けた課題を整理していくこととした。今月と来月,「上」と「下」の2回に分け論じる。以下は「上」の要旨である。
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1 日本の農業構造は,畜産・酪農や北海道では規模拡大が進んだが,稲作は依然零細である。農林水産省は,農業基本法を経て,農地法改正,農用地利用増進法等により農地流動化等の構造政策を進めてきたが,稲作の零細性は克服されていない。稲作の零細性は,日本をはじめとするアジアの農業が,伝統的に水田を中心とした零細な家族経営により営まれてきたという歴史的要因と,国土が狭隘で平坦地が乏しいという地理的要因によるものであり,条件の異なる新大陸との経営規模の格差は簡単には埋めることができない。また稲作の零細性の経済的要因として,①農家の農地に対する意識,②機械化による作業軽減,③兼業機会の増加,④不十分な年金収入,等が挙げられる。今後,農業機械の更新期到来や農業従事者の世代交代に伴って農家戸数の減少と規模拡大が進むであろうが,その速度は緩やかなものにとどまらざるをえず,稲作の大部分が兼業農家によって担われる構造は今後も続く見込みである。農協系統は,地域のなかで土地利用調整や農業経営に対する総合的サービスを行うことができる唯一の組織として,こうした農業構造の変化に対応して組織・事業を改革していく必要があろう。
2 農協は,戦後多数創出された零細な自作農を組織化するため,民主的な組織を目指し設立され,農業復興と食糧配給の上で大きな役割を担った。1950年代後半からの高度成長期には農協は営農団地を形成すること等によって,地域における農家の経営資源の再編成を進め,国内の農業生産の拡大に貢献した。また,兼業化・農外就業等による農家所得の向上においても,農協の総合的取組みが大きく寄与した。
農協は,70年代に入り,生産調整の開始もあり地域営農集団の育成や地域農業振興計画の策定等地域の実状に合わせた農業生産体制の構築に乗り出し,国内の農産物需給の安定化に貢献した。さらに,高齢化や後継者不足が深刻化する90年代からは,農地の担い手への集積に本格的に取り組んできた。
21世紀に入った現段階では,昭和一けた世代のリタイアという日本農業の大きな構造変化が進むなか,農協は集落営農を含む担い手法人の育成,さらには,そうした担い手がいない地域では農協自身の出資による農業法人設立も含めた対応が進められている。今後零細な農地所有世帯は明らかに農地の出し手になるとみられ,そうした構成員の変化に応じて農協は積極的に自身の持つ農地利用調整機能を発揮していく必要があろう。 - 刊行年月日
- 2006年06月01日
- 掲載媒体
- 定期刊行物 『農林金融』
2006年06月号 第59巻 第6号 通巻724号 13 ~ 41ページ - 掲載コーナー
- 論調
- 第一分野
- (大区分):協同組合・組合金融・地域 (詳細区分):農協
- 第二分野
- (大区分):農林水産業・食品・環境 (詳細区分):国内農業
- 出版者・編者
- 農林中央金庫 発行 / 株式会社農林中金総合研究所 編集
- ISSN
- 1342-5749
- 書誌情報URL
- https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/1830.html