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書誌情報

論題:日本の農業・地域社会における農協の役割と将来展望(下)-最近の農協批判に応えて-

06.07.01[ 更新10.09.03 ]

タイトル
日本の農業・地域社会における農協の役割と将来展望(下)-最近の農協批判に応えて-
要旨

(1,2は前月号に掲載)
3 農協は総合事業を通して,農業分野のみならず,農村部で都市並みの生活インフラ,サービスを提供し,農業,農村,農家の発展に広く貢献してきた。組合員,利用者は今後も総合事業の維持を望んでいる。総合事業のメリットは事業間の相乗効果と相補効果で,管理コストの削減効果も大きい。信用・共済事業の分離は大幅なコスト増を招き,規制緩和による異業種からの金融業参入等の流れにも反する。JAバンクシステムにより健全性が確保されており,経済事業改革等を進めることで農協は総合事業の特性を一層生かしていくべきである。
4 戦前の産業組合から戦後の農協法成立の過程を概観すると,農協は制度としては戦後職能組合に変化したものの,准組合員制度の存在や一定の範囲内での員外利用を許容する等,地域に開かれた協同組合であるという実態は,戦前から一貫している。その背景としては,わが国の農村自体に共同体的な色彩が強く,特定の職能だけに限定した協同組織よりも,広く地域に開かれた協同組織の方が,運営の効率性・安定性の面でより適合的ということがあったと考えられる。
 農協は,自ら変化することを許容する構造を持つ農協法の範囲において,農家数の減少や兼業化,都市化などの環境変化に対応して,多様な組合員を取り込み,正組合員中心のガバナンスは維持しつつも多様な組合員・地域住民の意見を事業・経営に反映させ,多面的な活動を行ってきた。
5 農協制度についての最近の論調における基本的な論点は,農協法を中心とする農協制度と農協の実態との乖離への対応,政策目的を担う機関としての農協と協同組合原則との関係の整理,農協の経営・事業・組織の弱体化への対応である。これらに対応する望ましい農協制度について,研究者の多くは,農協の協同組合としての立場を強め,目的を農業中心から食料,地域,環境を含むより広いものへ変更することを提唱している。
 欧州において協同組合は,経済的,社会的に大きな役割を果たしており,EUレベルでもこれを認め政策的に振興しようとしている。協同組合は,社会環境の変化に応じ,社会福祉や地域振興などの新しい課題に積極的に対応しており,日本の農協等にとっても参考になろう。
6 農協批判論者は,農協が「農業の構造改革に消極的で,兼業農家を守ってきた」「営農振興に不熱心で利益追求に走った」「上意下達的組織運営でやる気のある農業者の育成の障害になった」「信用・共済事業を分離すべきだ」「農業改革は大規模経営者に施策を集中し,株式会社の参入を促進することで達成できる」などと主張する。しかしこれは,本稿で詳細に明らかにしているとおり,歴史的な事実に基づかない的外れの批判・意見である。
 農協は,わが国の食と農業を支える公共的使命を持っており,今後ともその機能を一層発揮することが求められる。

刊行年月日
2006年07月01日
著者/
研究者紹介
石田   信隆 (イシダ ノブタカ) 研究員紹介を見る
重頭   ユカリ (シゲトウ ユカリ) 研究員紹介を見る
斉藤   由理子 (サイトウ ユリコ) 研究員紹介を見る
小野澤   康晴 (オノザワ ヤスハル) 研究員紹介を見る
鈴木   博 (スズキ ヒロシ)
平澤   明彦 (ヒラサワ アキヒコ) 研究員紹介を見る
本田   敏裕 (ホンダ トシヒロ)
掲載媒体
定期刊行物 『農林金融』
2006年07月号 第59巻 第7号 通巻725号  27 ~ 65ページ
掲載コーナー
論調
掲載号目次
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/2006/07/
第一分野
(大区分):協同組合・組合金融・地域  (詳細区分):農協
キーワード
農協,総合事業,組合員制度,農協法,地域社会,協同組合
出版者・編者
農林中央金庫 発行   / 株式会社農林中金総合研究所 編集
ISSN
1342-5749
PDF URL
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0607re3.pdf  221.5KB
書誌情報URL
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/1837.html